横浜地方裁判所 平成11年(行ウ)46号 判決 2000年12月27日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が原告及び別紙選定者目録記載の選定者らに対し平成一〇年八月五日付けでした不動産取得税賦課決定(ただし、神奈川県知事の平成一一年五月一七日付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち、課税標準額四四八万五〇〇〇円及び税額一三万四五〇〇円を超える部分を取り消す。
第二事案の内容
一 事案の概要
本件は、原告等が共同取得した建物について、被告が地方税法七三条の一四第一項所定の控除の特例を適用しないで不動産取得税賦課決定をしたのは違法であるとして、原告(選定当事者)が、その取消しを求めた事案である。
二 争いのない事実
1 本件車庫の取得
原告は、平成九年四月一日、別紙物件目録記載一の建物(以下「本件車庫」という。)を、新築して取得した。
2 本件居宅の取得
原告並びに別紙選定者目録記載の選定者であるA(及びB、原告及びAと併せて「選定者ら」という。)は、平成九年六月一五日、別紙物件目録記載二の建物(以下「本件居宅」という。)を、原告一〇〇分の四〇、A一〇〇分の四〇、B一〇〇分の二〇の共有持分割合で新築して取得した。
3 本件賦課決定
被告は、選定者らに対し、平成一〇年八月五日付けで本件居宅及び本件車庫を併せた全体(以下「本件車庫付居宅」という。)について課税標準額を二〇四四万円、税額を六一万三二〇〇円とする不動産取得税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をし、そのころこれを選定者らに対して通知した(納税通知書番号 四八―五〇四二三―五)。
4 審査請求と裁決による一部取消し
選定者らは、本件賦課決定を不服として、平成一〇年九月二八日に神奈川県知事に対して審査請求をしたところ、神奈川県知事は、平成一一年五月一七日、右決定が本件車庫についての納税義務者を誤認したものであるとして、本件賦課決定のうち、本件車庫に対する不動産取得税に係る部分(本件居宅の課税標準額である一六四八万五〇〇〇円及び税額四九万四五〇〇円を超える部分)を取り消す旨の裁決をし、そのころこれを選定者らに対して通知した。
5 住宅取得に係る不動産取得税の特例
地方税法(以下「法」という。)七三条の一四及び地方税法施行令(平成一〇年政令第一一四号による改正前のもの。以下「令」という。)三七条の一六は、次のとおり、不動産取得税の課税標準の算定において価格控除をする旨の特例(以下「本件特例」という。)を規定していた(なお、前記のとおり、本件が平成九年における共同住宅等以外の住宅を新築した事案であるので、法令については、読み易さを考慮して、共同住宅等の場合や、新築された住宅でまだ人の居住の用に供されたことのないものの購入の場合について規定した箇所は、適宜省略し、その省略部分を「…」又は「(略)」で示す。また、法令の規定文言だけでなく、内容の説示においても、以下、同様とする。)。
(一) 法七三条の一四の定め
「住宅の建築(…、政令で定めるものに限る。)をした場合における当該住宅の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については、一戸につき千二百万円(略)を価格から控除するものとする。
2 共同住宅等以外の住宅の建築(略)をした者が、当該住宅の建築後一年以内にその住宅と一構となるべき住宅を建築し、又はその住宅に増築した場合にあっては、前後の住宅の建築をもって一戸の住宅の建築とみなして前項の規定を適用する。
(3以下、略)」
(二) 令三七条の一六の定め
「法第七十三条の十四第一項に規定する住宅の建築で政令で定めるものは、次の各号に掲げる住宅の建築の区分に応じ、当該各号に定める住宅の建築とする。
一 共同住宅等(略)以外の住宅の建築(略)
当該建築に係る住宅(当該建築が住宅と一構となるべき住宅の新築である場合にあっては一構をなすこれらの住宅とし、当該建築が住宅の増築又は改築である場合にあっては当該増築又は改築がされた後の住宅とする。…)の床面積…が四十平方メートル…以上二百平方メートル以下で…ある住宅の建築
二 (略)」
三 主な争点
本件の主な争点は、選定者らによる本件居宅の取得について本件特例の適用があるかどうかであり、より具体的には、1.本件特例における令三七条の一六第一号(以下「令一号」という。)の適用に当たり、当初住宅と一構となるべき住宅とは同一の建築主によって建築されたものであることを要するか、2.本件車庫が令一号の「住宅」に該当するかである。
四 争点に関する両当事者の主張
1 当初住宅と一構となるべき住宅の取得者の同一性の要否について
(一) 原告の主張
(1) 不動産取得税は、もともと不動産の取得毎に不動産の取得者に賦課される県税であり(法七三条の二第一項)、法七三条の一四第一項(以下「法一項」という。)が定める「政令」である令一号にいう「一構となるべき住宅」の取得者も法七三条の二第一項の取得及び取得者を前提とすべきである。したがって、別家屋が別時期に別人によって取得される場合には、その別家屋が一構となるべき住宅に該当すると判定する余地がない。
(2) 政令の要件を解釈する際には、政令が委任を受けている元の法律に予定されている取得形態が前提とされなければならないところ、法七三条の一四第二項(以下「法二項」という。)においては、同一の建築主によってさらに建築又は増築されることが「一構となるべき住宅」の要件とされているから、政令にいう一構となるべき住宅も右法律の範疇において要件が定められていると見るべきである。
後一記(二)の被告の見解によれば、政令が課税実体法の法律要件を左右する結果となり、租税法律主義に反する。
(二) 被告の主張
住宅の取得者が異なる場合に法二項の規定が適用される余地はなく、この点に関する限りにおいて原告の主張は正当であるが、令一号は、法一項を受けた規定であり、法二項のように取得者の同一性が要件とはされていないから、当該住宅が一構となるべき住宅である場合には、その取得者のいかんを問わず、床面積を合算した上で本件特例の床面積要件を充足しているか否かを判断すべきである。
すなわち、法七三条の一四全体の構成としては、まず同条一項(法一項)及び同項を受けた令一号において、本件特例の適用要件として、その取得者のいかんを問わず、一構となるべき住宅全体の床面積の上限及び下限を定め、これを満たす住宅について本件特例を適用すべき旨を定めた上で、法二項においては、一構となるべき住宅の建築が、同一人によって、しかも一年以内に行われた場合には、これを一戸の住宅の建築とみなして本件特例を一回に限り適用することとしているのであって、これらの各規定の文言及び立法趣旨からすれば、法一項が同一人によって建築又は増築されることを前提とするものでないことは明らかである。
2 本件車庫の「住宅」該当性の有無について
(一) 原告の主張
(1) 車庫は、自動車・バイク等の乗り物を保管するための家屋であるから、法七三条四号にいう「人の居住の用に供する家屋」ではなく、「住宅」であるとはいえない。
(2) 不動産登記法上は、車庫を附属建物とするか別棟とするかは申請人の意思によるとされているところ、本件特例の適用の有無については、申請人の意思によるとすることは適当でないから、不動産登記法の右の考え方を当てはめることは適当ではない。
のみならず、不動産登記法上は、取得者が異なるときは一個の家屋として登記をすることができないのであるから、同法上の考え方は本件には適しない。
(3) 仮に一般論として車庫が住宅に該当する余地があるとしても、本件車庫は原告が最初にこれを取得し、その後に選定者ら三名が本件居宅を新築取得したもので、原告が本件車庫を取得した時点では、本件居宅自体が未完成の状態にあり、本件車庫は、後日住宅に据え付けることとなる照明器具や引越荷物等を保管する倉庫として使用が開始されたものであるから、本件車庫をもって「住宅と一構となるべき住宅」に該当すると認定するのはその前提を欠く。
(4) 車庫の所有者と建物の共有者とが取得の際に一部重なっているときであっても、最初に住宅の新築がされ、次いで同一建築主により一年内に一構となるべき住宅がさらに新築あるいは増築によって取得されることが本件特例の要件であるから、最初に本件車庫が新築され、次に本件居宅が新築された本件は、「一構となるべき住宅」が建築された場合に該当しないのであり、法二項は適用されない。
(5) なお、被告の主張する「自家用自動車の車庫」という車庫の用途は、車庫所有者の内心の事情であるから、これを判断基準として賦課決定を行うことは客観性に欠け、租税法律主義に違反する。仮に百歩譲って、そのような判断基準を用いることが是認されるとしても、その基準は、県税事務所の担当者が、車庫所有者の用途事情と内心の意思とを調査確認して(税法体系上、そのための手続を定めた政令又は準則が制定される必要がある。)初めて賦課決定が可能となるべき事柄であって、少なくとも推察又は推定で勝手に賦課決定を行える事柄ではない。
(二) 被告の主張
令一号にいう「一構となるべき住宅」とは、母屋と付属家屋との関係にあるもので、不動産登記法上一個の建物とみられるべきもの、すなわち、建物の客観的状況からみて効用上一体として利用できる状態にあるものをいい、自家用自動車の車庫については、居宅に付随する家屋であることから、これに含まれる。
右規定は、母屋である住宅と付属家屋である住宅との建築の先後関係については制約を設けていないから、母屋が先に建築されなければならないとする原告の主張は失当である。
3 まとめ
(一) 原告の主張
本件居宅の取得については、本件特例が適用され、その不動産取得税の課税標準額から一二〇〇万円が控除されるべきであるから、原告は、被告に対し、本件賦課決定のうち、課税標準額四四八万五〇〇〇円及び税額一三万四五〇〇円を超える部分の取消しを求める。
(二) 被告の主張
争う。本件居宅(床面積一八二・一八平方メートル)は、本件車庫(床面積四四・四七平方メートル)と一構となるべき住宅であって、両者を合算した床面積は令一号所定の床面積要件を超えるから、本件特例は適用されない。
第三当裁判所の判断(認定事実の後に、適宜、当該事実の認定根拠となる証拠等を略記する。)
一 法一項、法二項及び令一号の各規定の趣旨と相互の関係(争点1等)
1 法一項の趣旨
不動産の取得に対しては、取得者に不動産取得税が課される(法七三条の二第一項)。不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における不動産の価格とされる(法七三条の一三第一項)。
そして、住宅の建築をした場合(政令で定める場合に限る。)における不動産取得税の課税標準の算定においては、一戸につき一二〇〇万円を価格から控除するとの本件特例が定められている(法一項)。
本件特例制度は、住宅建設の促進を図る見地から昭和二九年に導入され、当初は、住宅を建築した場合における不動産取得税については、「(政令で定める場合に限る。)」といった限定がなく、いかなる場合にも、課税標準の算定に当たり、一戸につき一定額を価格から控除するという制度であった(乙六)。ところが、ある一定限度を超えた贅沢な住宅にまで税制上の優遇措置を講ずることは不適当であるとして、昭和五五年の改正により、法一項に「政令で定める場合に限る。」の文言が加えられ、これを受けて令一号の規定が設けられ、一定の床面積要件及び価格要件を満たす場合にのみ、価格控除の優遇がされるように改正された(乙七)。なお、その後床面積が一定未満の住宅について優遇措置を講じないとされたのは、小規模すぎるために、その必要がないとされたものと思われる。
右の床面積要件は、共同住宅等でない住宅については平成九年当時四〇平方メートル以上二〇〇平方メートル以下であり(令一号)、右の控除額は、当初は一〇〇万円であったが、その後、改正が加えられ、平成九年当時は一二〇〇万円とされている(法一項。乙六・七)。
2 法二項の趣旨
(一) ところで、法一項の本件特例だけでは、住宅の取得の時期を区分することにより、本件特例の適用を複数回受けることができることとなって不合理であるので、このような結果を招く脱法的な行為を防止する趣旨から、法二項において、共同住宅等以外の住宅を建築した者が、当該住宅の建築後一年以内にその住宅と一構となるべき住宅を新築し又はその住宅を増築した場合にあっては、前後の建築に係る住宅をもって一戸の住宅とみなして前項の規定を適用する旨が本件特例制度導入当初から定められた(乙六)。なお、「一構となるべき住宅」の意義については、後記4で検討するとおりである。
(二) (一)のとおり法二項の規定があるため、法一項の内容が一定の床面積要件及び価格要件を規定していない時期においては、法二項の規定は、床面積及び価格とは無関係に本件特例を結局当初の住宅の建築の際に一回だけ適用するということを意味した。
ところが、法一項につき、一定の床面積要件及び価格要件が導入された時期以降は、同一の文言からなる法二項の持つ機能が変化することとなり、多くて一回、少ない場合には一回も本件特例の適用を受けられないこととなった。すなわち、当初住宅を建築した時には、床面積要件を満たす標準規模のもので本件特例の適用を受けられたところ、次に新築又は増築した一構となるべき住宅とまとめて判定されると、床面積要件の上限を超える大規模なものとなるような場合、当初の本件特例の適用が遡ってなかったこととされ、不足税額を追徴されることとなるのである。このように一回も本件特例の適用が受けられない場合があることは、必ず一回だけ本件特例の適用が受けられた改正前の制度とは質的な変化があったことを意味する。
(なお、乙七参照)
(三) (二)のように、法一項についての改正があった昭和五五年以降における法二項は、同一人が事後に一構となるべき住宅を新築又は増築した場合には、その一構となるべき住宅に対する取得税賦課の機会に当初の住宅についての不動産取得税の賦課について見直すというものである。その結果、法二項に該当する場合における本件特例の適用の時期及び回数は、当初の住宅建築の際に一回だけであり、事後の建築の際にはそれについて本件特例が適用されることはなく、しかも事後の建築の際には、当初の住宅の建築について適用された本件特例が維持される場合もあるが、遡及的にそれが排除される場合もあるというものである(以下「遡及的排除の特則」ということがある。)。
ただし、当初建築と事後の建築とのそれぞれの機会に合算して一二〇〇万円の価格控除がされる場合もあると思われるが、話を単純化するために以下ではそのような場合についての説明を省略する。
3 令一号中の「一構となるべき住宅の新築」と法一項の要件との関係
(一) 1のとおり、住宅の新築の場合にすべて本件特例の適用があるわけではなく、政令で定める場合に限り、本件特例の適用があるわけであるが、その政令である令一号を見ると、床面積要件として、四〇平方メートル以上二〇〇平方メートル以下と定められていることは、前記1のとおりである。
(二) 次に、令一号においては、対象となる住宅について、「当該建築に係る住宅(当該建築が住宅と一構となるべき住宅の新築である場合にあっては一構をなすこれらの住宅とし、…)」として、一構となるべき住宅の新築が法一項の適用対象となる旨が定められている。同じ「一構となるべき住宅」という文言を有する規定であり、法二項との関係が問題となるが、まず、令一号自体の意味を検討する。なお、「一構となるべき住宅」の意義については、後記4で検討するとおりである。
右のとおりの令一号があるため、住宅の建築をした場合、床面積要件を満たすものについては、まず、一二〇〇万円の価格控除がされて、不動産取得税が賦課される(法一項)。次いで、この住宅と一構となるべき住宅が建築された場合には、第一に当該事後に建築された住宅について本件特例の適用の機会は与えられる。それは、一構となるべき住宅であっても、独立の住宅の新築である以上、特段の排除規定がない限り、不動産取得税が賦課され、それには一体となる本件特例の適用の機会を与えることが不動産取得税の基本的な仕組みから導かれる論理的帰結であるからである。そして、令一号は、そのことを前提として、「当該建築に係る住宅(当該建築が住宅と一構となるべき住宅の新築である場合にあっては一構をなすこれらの住宅…)」の床面積、すなわち当初の住宅の床面積と一構となるべき住宅の床面積とを合計した床面積をもって、事後の住宅についての本件特例の適用の有無を判定するための対象床面積とする旨の特則を設けていると解される。
4 法一項・令一号と法二項との異同
(一) 法一項を受けた令一号においても、法二項においても共に「一構となるべき住宅」という同一文言が使用されている。一構となるべき住宅ということは、規定の文言からすれば、住宅の客観的性質上「一構となるべき」ということであるから、当初の住宅と共に住宅としての用に供されるもので、効用上の一体性を有する関係にある住宅をいうものと解される。そして、同一文言は同一に解するべきであるから、右の両規定にある「一構となるべき住宅」の意味は共に右のとおりの内容を有するというべきである。
(二) 次に、共に「住宅と一構となるべき住宅の新築」という文言を有する令一号と法二項との適用場面の違いの有無及び内容を検討する。
まず、令一号は、法一項の規定を受けた政令の規定であるから右一項と一体化するものである。これに対し、法二項は、法一項の例外あるいは特則を定めており、内容的には、住宅の新築をしたその者が当該住宅の建築後一年以内にその住宅と一構となるべき住宅を新築する場合を規定している。したがって、令一号の規定を含む法一項の規定から法二項の場合だけが特則として除かれることになる。そうすると、結果的には、法一項及びそれと一体となる令一号の規定の適用のある場合というのは、当初建築をしたわけではない者が一構となるべき住宅を新築する場合又は当初建築をした者が一年を超えた時期以降に一構となるべき住宅を新築する場合ということになる。
(三) さらに、(二)のとおりの適用場面が異なる場合にもたらされる両者の効果の異同は、次のとおりである。
すなわち、法一項及びそれと一体となる令一号の適用がされる場合にあっては、事後に新築された一構となるべき住宅についての本件特例の適用の機会は、当初の住宅についての本件特例の有無と別個独立に確保され、当初の住宅について適用された本件特例が遡及的に排除されることはなく、当初住宅についての本件特例に全く変更はない。したがって、右の場合において本件特例の適用の機会が設けられる時期及び回数は、建築の都度及びそれだけの回数である。これに対し、法二項の適用のある場合における本件特例の適用の機会が設けられる時期及び回数は、当初の住宅建築の機会の一回だけであり、かつ、その一回も遡及的に排除されることがあるわけである。
ただし、法一項と一体となる令一号に該当する場合において、事後に新築された一構となるべき住宅について本件特例が適用されるかどうかを判定するための対象床面積は、前後の住宅の合計床面積とされる。意味合いは別であるが、合計床面積を判定の対象とするところは、法一項と一体となる令一号の場合と法二項の場合とで、判定作業の過程は類似する。
(四) なお、ここで、右(一)から(三)のとおりに解される法一項及びそれと一体となる令一号の規定の趣旨あるいは目的を検討する。
同一所有者ではない者が一構となるべき住宅を新築する場合や、同一所有者が一年経過後に一構となるべき住宅を新築する場合には、本件特例の適用の機会がその都度設けられるが、これにつきその都度本件特例がなんらの変更を加えられることなく適用されるということであれば、やはり結果的に本件特例による優遇措置が過剰に適用されるおそれもある。そこで、当初建築された住宅にされた本件特例の適用までを覆滅することはできない(法二項の要件に該当しない右の場合に、本件特例を適用することは、法二項による遡及的排除の特則と抵触することになる。)ものの、他の制限を施すこととし、一構となるべき住宅の新築の都度、本件特例の適用の機会は与えられるが、本件特例の適用の可否は、当初の住宅の床面積も加算した床面積を対象として行うという方法で、右のように結果的に本件特例が過剰に適用されることを抑制しようという趣旨に出たものと解されるのである。
ただし、事後に新築される一構となるべき住宅の床面積が四〇平方メートル未満である場合において、床面積を合算せずに右事後建築の住宅について本件特例の適用の可否を判定する限り本件特例は不適用となるが、これに令一号の規定を形式的に適用して当初の住宅の床面積と合計すると四〇平方メートル以上二〇〇平方メートル以下という要件に該当して本件特例の適用が受けられる場合が生ずることもある。趣旨解釈からは、このような場合には合算しないと解釈すること(事後の住宅の床面積が四〇平方メートル以上の場合を前提として、その場合にだけ合算すると解釈すること)ができそうにも思われるが、文理解釈としては無理があろう。したがって、その限度では、令一号は本件特例が不必要に適用される場合を設けたともいえるが、これは、やや特異な場合を想定した議論であろう。本来的な趣旨は前記のとおりであり、それぞれが独立に判定した場合には本件特例の適用があるが、合算すると二〇〇平方メートルを超えるような場合に過剰適用の抑制の必要から、令一号の括弧内の規定が設けられていると解される。
(五) 原告は、法二項と令一号とが矛盾してはならず、後者の規定を前者の規定に反しないように解釈しなければならないと主張するところ、そのことは、一般論としてはそのとおりである。ただ、右(一)から(四)のとおり、もともと両者は矛盾するというより、令一号を含む法一項が原則であり、法二項が例外であるという関係にあるだけである。原告は、一構となるべき住宅の意義について、同一人が建築することが要件となっていると主張するが、一構となるべき住宅かどうかは、所有者が同一であるかないかとは無関係に住宅の用途から客観的に定まることである。このような解釈に立つ限り、法二項と令一号とは、なんら矛盾しないのであり、原告は独自の解釈を出発点として独自の議論を展開するものであって、その主張は採用することができない。
二 本件車庫の「住宅」該当性の有無(争点2)
1 論点の整理
本件では、原告が本件車庫を新築により取得し、次いで選定者らが本件居宅を新築により取得したものである。そうすると、右一のとおりの解釈を前提とすると、原告が本件車庫を取得したことは住宅を建築したことに該当するか、その後選定者らが本件居宅を新築により取得したことは一構となるべき住宅の建築に該当するか、この場合、令一号又は法二項が適用されるか、の問題がある。そこで、まず、先に取得された本件車庫が令一号の住宅に該当するかどうか、次いで、三において後から取得した本件居宅が一構となるべき住宅に該当するかどうかを、さらに四において令一号又は法二項が適用されるかを検討する。
なお、原告は、本件車庫の「住宅」該当性についての判断を、「一構となるべき住宅」の適用についての判断よりも先にすべきである旨主張するところ、そのような点を含め、法一項、法二項及び令一号の各規定の趣旨と相互の関係についての一般的な解釈が大きな、かつ先決の論点であるので、一においてこれを先に判断したものである。
2 令一号の「住宅」の意義
不動産取得税に関して「住宅」の用語の意義について定めた法七三条四号は、「住宅」を「人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分で、政令で定めるものをいう。」と定義し、右規定を受けた政令である令三六条一項は、これから別荘のみを除外している。
なお、法七三条三号は、「家屋」を「住宅、店舗、工場、倉庫その他の建物をいう。」と定義している。
そうすると、令一号の「住宅」の意義も法七三条四号の「住宅」と同旨であり、「居住の用に供する」と定義していることから見て、居住の用に供されるものであれば足り、現実に「人の居住する家屋又は家屋のうち人の居住する部分」でなくてもよいと解される。したがって、令一号の「住宅」とは、現に入の居住・寝食する居宅に限らず、その居住・生活のために用いられる車庫、浴場、便所等の建物を含むと解するべきである。
また、令一号は、「住宅」とこれと「一構となるべき住宅」について規定しているところ、「住宅」とこれと「一構となるべき住宅」とは機能を相互に補充する関係にあるから、居住者にとって居住に必要な建物が複数あるならば、それらは、機能的には相互に「住宅」及び「一構となるべき住宅」に該当すると解するのが相当であり、右の点からも、「住宅」の意義に関する前記のとおりの解釈が相当であることが裏付けられる。
3 本件車庫の「住宅」該当性の有無
(一) 右2の解釈を本件に当てはめることとする。まず、本件居宅は、専ら原告、選定者A及び両名の子の居住の用に供されるものであり、司法書士である原告の事務所としての使用に供されるものではない。そして、同じ敷地内にある本件車庫は、原告名義の自家用車のための車庫として使用されている。なお、Bは本件居宅の近隣に居住している。(甲二、甲三の一・二、原告の自認する事実)
したがって、本件車庫は、本件居宅に居住する原告及び家族らの居住の用に供されるものであり、令一号にいう「住宅」に当たるといえる。
(二) 原告は、自家用自動車の車庫であることは車庫所有者の内心的事情であるからこれを基準とすることは許されない旨主張する。しかし、右のとおり本件車庫の用途は、本件居宅の用途、本件車庫が本件居宅の脇にあるという客観的事情により判断されることであるから、原告の右主張は採用することができない。
また、原告は、本件車庫と本件居宅の建築の先後関係から、本件車庫はその取得時には「住宅」性を有しなかった旨も主張する。しかし、本件車庫の取得時(平成九年四月一日)において、本件居宅は新築工事中であり(甲六)、原告は本件車庫に引越荷物をおいてこれを使用していた(弁論の全趣旨)。したがって、本件車庫はその取得時においても人の居住の用に供される予定の家屋(建物の意味である。―法七三条三号)ということができ、また、現に引越荷物を保管するための建物として利用に供されたから、まさに居住の用に供する家屋、すなわち「住宅」というべきである。
三 本件居宅が一構となるべき住宅に該当するか否か
1 次に、選定者らが本件居宅を取得したことが、本件車庫との関係で一構となるべき住宅の取得に該当するかどうかを検討する。
2 一構となるべき住宅の意義
(一) 前記のとおり、令一号にいう一構となるべき住宅とは、当初の住宅と共に住宅としての用に供されるものであり、効用上の一体性を有する関係にある住宅をいうものと解される。
(二) 効用上の一体性を有する建物は、不動産登記法上、所有者が同一であれば、主たる建物と附属建物として単一の表示登記をすることができる(同法九一条一項参照)から、そのような観点からの検討も有益である。ただし、令一号の規定上は「一構となるべき」こと以上に何らの要件も定められていないから、その文理上前記のとおり取得者の同一性も、当初の住宅とこれと一構となるべき住宅との主従関係も問わない趣旨と解される。
3 本件居宅の取得と一構となるべき住宅該当性の有無
2の解釈を本件居宅に当てはめると、本件車庫は、本件居宅の居住者である原告が自家用として利用する自動車を保管するためのものである。また、本件車庫は、本件居宅の「附属建物」として本件居宅についての登記と共に登記がされている(甲二)。したがって、本件居宅は、本件車庫と効用上の一体性を有するというべきであり、令一号にいう当初住宅(本件車庫)と「一構となるべき住宅」に当たると解される。
四 本件居宅についての令一号又は法二項の該当性の有無と本件賦課決定の適否
1 本件居宅についての令一号又は法二項の適用の有無
三のとおりであるから、本件居宅は、本件車庫(当初の住宅)との関係で令一号にいう「一構となるべき住宅」であるというべきである。
しかし、本件車庫については原告、本件居宅については選定者らが取得者であり、取得者を異にするので法二項の適用はない。
2 令一号の適用の結果と本件賦課決定の適否
1のとおりであるから、本件居宅の取得については、その取得時に本件特例の適用があるかを本件車庫の床面積と合算して判定することになる。したがって、本件居宅の取得に対する本件特例の適用の有無は、本件車庫付居宅の総床面積(本件車庫分四四・四七平方メートルと本件居宅分一八二・一八平方メートルとの合計床面積二二六・六五平方メートル)を対象として判定されるので、これによれば、二〇〇平方メートルを超えるため、本件特例の適用はない。その結果、本件居宅についての不動産取得税は、価格一六四八万五〇〇〇円から本件特例による価格の控除をすることなく、これに税率一〇〇分の三を乗じた四九万四五〇〇円となる(一〇〇円未満の端数切捨て)。
したがって、これと同旨の本件賦課決定(裁決により一部取り消された後のもの)に過大認定の違法はない。
3 本件車庫についての不動産取得税の有無及び内容
原告は平成九年四月一日本件車庫を取得した。この本件車庫の取得については、家屋の取得として不動産取得税が生ずるが、これについては、本件特例の適用がされ、課税標準の算定については、その価格三九五万五〇〇〇円から一二〇〇万円の控除がされるので、課税額が零となる。そして、本件には法二項の適用はないから、本件車庫についてされた本件特例の適用が遡及的になかったこととされるおそれはない。この点は被告も認めるところである。
なお、原告は、平成九年六月一七日、Aに対し本件車庫の所有権の持分一〇〇分の四〇を、Bに対し同一〇〇分の二〇をそれぞれ代物弁済を原因として譲渡した(争いがない。)。この移転に伴う不動産取得税の問題は、本件の範囲を超えるので、触れないこととする。
五 結論
以上のとおりであるから、本件賦課決定(裁決後のもの)は適法であり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 裁判官 平山馨)